導入実績

CASE
2021-06-09

上智大学 田村恭久先生研究室

グループディスカッションでの個人の発話量やバランスに着目し、教室レイアウトの差異がアクティブ・ラーニング活動に与える影響を研究。

フィールド

上智大学・田村恭久先生の研究室にて、「異なる種類のラーニング・スペースにおけるアクティブ・ラーニング活動の定量分析」という研究課題の中の「音声情報を用いたグループディスカッションの発言遷移分析」という研究にご利用いただきました。

この研究では、アクティブ・ラーニングの授業導入が拡大し、ラーニング・コモンズなどアクティブ・ラーニングに特化した教室も普及し始めているということを背景に、これら設備が実際に学習者の活動に与える影響を、データを用いて議論することを目指しています。

そこで、レイアウトの異なる以下の3タイプの教室における情報科目の授業で、1グループ5人前後×50分程度のグループディスカッションを Hylable Discussion で分析しました。そして、教室ごとの発話の特徴を比較しました。

<表1 比較対象としたラーニング・スペースの種類>
分類 アクティブ・ラーニング教室型 コンピュータ教室型 通常教室型
什器の可動性 机:可動
椅子:可動
机:固定
椅子:可動
机:固定
椅子:可動/固定
実際の様子

導入の目的

田村研究室では、教室レイアウトの差異がアクティブ・ラーニング活動に与える影響を分析するために、グループディスカッションにおける発話量やターンテイク(話者交代の遷移)を可視化したいと考えていました。

研究室ではスマートフォンを用いた独自システムの開発を進めていましたが、システムの安定性や精度に課題もありました。そこで、音響分析の専門技術を持つ企業を探したところ、「音環境分析」技術をベースとして録音から発話の分析までを一貫したプロダクトとして提供している当社を見つけられました。

成果

Hylable Discussion でレイアウトの異なる3タイプの教室におけるグループディスカッションでの発話量・ターンテイクを可視化したところ、発話量、ターンテイク回数、そして1人あたりの平均発話量(1分間あたり)には有意な差は見られませんでした [1]。

この結果は、机・椅子の可動性が高いアクティブ・ラーニング教室で、最も発話量・ターンテイク回数ともにグループ内のバランスが均等に近づくと考えた仮説とは、異なるものでした。このことは、グループディスカッションの活動に影響を与える要素は、机・椅子やその配置以外にある可能性を示しています。

<表2 実際の分析結果(一部)>

  

アクティブ・ラーニング教室型 コンピュータ教室型 通常教室型

一方、Hylable Discussion での発話の分析と同時期に、同じ研究課題に対し「骨格情報を用いたプレゼンテーションとグループディスカッションの活動分析」という研究も行っていました。この研究では、骨格座標を可視化するソフトウェア OpenPose と360度カメラを使って、グループディスカッション中の様子を分析しました。上記実験と同じ3タイプの教室で挙動の比較を行ったところ、一般に什器の可動性が高いと言われているアクティブ・ラーニング教室型において、学習者の移動が少ないことが明らかになりました [2]。

今回はラーニング・スペース研究として、アクティブ・ラーニング活動の定量分析にご利用いただいた事例をご紹介しましたが、田村研究室ではこの他にも2020年にリリースしました「Web会議の見える化サービス Hylable」もご利用いただいています。

田村先生によると、教育学・教育工学の研究分野では、アクティブ・ラーニング型授業における「良いグループディスカッションとはどのようなものか」は議論が続いているテーマです。田村研究室では、グループディスカッションにおける発話の分析を一つの手掛かりに、有益なグループディスカッションの定義や評価方法を検討されています。

田村研究室では今後も、総合的なアクティブ・ラーニング研究を進めていくために、 ハイラブルの製品で得られるディスカッションの可視化データを活用される予定です。ハイラブルの製品はこのように、教育分野の研究に資する計測・分析ツールとして認められています。

【参考文献】
[1] Junichi TAGUCHI (2020), “Visualization of Utterance Transition in Group Discussion”, A Thesis Submitted to the Graduate School of Science and Technology of Sophia University in partial fulfillment of the requirements for the degree of Master of Engineering

[2] 若本武人, 堀越泉, 田口淳一, John Augeri, 田村恭久 (2020), “異なる種類のラーニング・スペースにおける学習者の骨格座標推定データを用いた挙動の可視化と比較”, 日本教育工学会2020年秋季全国大会, P3-32

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