1つは、話し合いに参加していた教員や友達から、直接アドバイスをもらう方法である。
「〇〇さんや△△さんばかり発言しているから、あなたも話合いに参加しましょう。」
「人の発言を聞いたら、あなたも反応をしましょう。」
と、客観的な立場の人間からのアドバイスにより、いくらかは改善することができる。しかし、アドバイスの内容が実態に即していなかったり、適切なアドバイスを与えられなかったりすることもある。人間関係によっては、アドバイスを受け入れられにくいこともある。
働きかけの2つめは、目標を立て、活動後に自分で振り返るという方法である。
「前回の話合いでは、“なんとなく”盛り上がらなかったから、盛り上げてみよう」
「“あまり”他の人の話に反応できていなかったから、反応しながら聞いてみよう」
目標を立てる際の根拠の多くは、「自身のカン」である。“なんとなく”自分は話過ぎている気がする。“なんとなく”相手の話に反応できていない気がする。自分で自分の対話の様子を客観的に観察することは難しい。教員ならば、まるで的を射ていない目標を立てる児童をよく目にするだろう。自身の話す様子をメタ認知するのは、大人でも難しい。
①、②の手立てをもってしても、授業の前と後で状況が変化しない児童はたくさんいる。かつて私が担任したクラスにも多く存在した。
そこで取り入れたのが、ハイラブルである。
ハイラブルを使用すると、自分の対話中における「総発話量」や「盛り上げ度」、「重なり度」(友達の話への反応)が数値、グラフとして表示される。
「“なんとなく”発話量が足りないよ。」
「“あまり”人の話に反応できていないよ。」
そんな曖昧な表現ではない。
「今回の発話量は〇分〇〇秒で、対話全体の〇%を占めているよ。」
「自分の発言の後に話が盛り上がったのがどれだけあったよ。」
が、具体的で視覚的な数値やグラフで、表示されるのである。
メタ認知が苦手な児童にとって、頭をガツンと殴られた気分になるだろう。
「もっと話していた“つもり”だったのに」
「反応して聞いていた“つもり”だったのに」
ハイラブルのAIは遠慮することも忖度することもない。ある意味残酷なほどの事実を突きつけてくる。しかし、そこがいい。
こうして、次の話合い活動で子供達は奮起することになる。
まず、目標設定の場面である。
客観的な事実を根拠に目標をたてるため、でたらめな目標をたてる児童が明らかに減った。
例えば、もともと発話量が多い児童が、「もっと発言したい」と書くことが減り、「友達に質問をして、反応するようにしたい」と目標を立てるようになった。
「発話量」「重なり量」「盛り上げ量」の三角形のどの部分をどの程度改善していきたいのか、書き表すようになった。
そして、最も激変するのが、振り返りの場面である。
ほとんど話していないのに、
「今回はたくさん話せた。」
と実態とはまるでかけはなれた振り返りをする児童は皆無になった。
「盛り上げ量を増やそうと思っていたけれど、変化がなくて悔しかった。」
「今回意識した重なり量が増えていてよかった。」
と、グラフや数値等の具体的事実をもとに振り返りを行えるためである。
下の【図①】【図②】は、対話が苦手な児童A、児童Bの1回めの対話の記録、及び2回めの対話の記録である。
【図1】1回目の対話の記録
【図2】2回目の対話の記録
児童Aの発話量は約13.5倍になり、児童Bの発話量は約9.1倍になった。どちらも、もともと対話が苦手な児童である。
他の「対話が苦手な児童」の発話量も次の通りである。
(全て、対話時間12分、グラフ省略)
C児 0:49 ⇒ 0:57(約1.1倍)
D児 1:21 ⇒ 2:26(約1.8倍)
E児 0:22 ⇒ 0:02(約0.1倍)
F児 0:09 ⇒ 11:13(約74.8倍) |
C児やE児については、大きな変化が見られない。しかし、A児、B児、F児は、確実に何か自分の殻を破っていこうとするものを感じる。
普段の対話授業では決して実現しなかったであろう事実である。
もちろん、もともと対話をする児童の多くも、グラフが変化する様子がうかがえた。
今回、あえて数値を示して記述してきた。
「何か話合いが活発になった気がする」
と個々人の感覚やカンを根拠に成されてきた「対話」についての研究も、ハイラブルを活用することで、より具体的に数値を根拠に進めることができると考える。
ハイラブルを活用したこれからの研究に注目していきたい。