Vol. 23 怪しげな情報を見分ける方法とは?【ニッキン転載記事】

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コミュニケーションを効果的に行う重要性が増すなか、シリーズ「会議が見える〜音環境分析でコミュニケーションを豊かにする〜」では、これまで10万人以上の話し合いを分析してきた音の専門家が会議を解説。

Vol.23では、フェイクニュースに関する解説書をもとに、「怪しげな情報」を見分ける研究や方法について紹介。認知バイアスやうわさ、そして偽情報をどう疑うのかに言及した。

本記事は、ニッキンONLINE PREMIUMで連載中の記事の転載です。
※媒体社の許諾のうえ転載しております。




怪しげな話?

会議や立ち話、ちょっとした相談の中で、真偽があやしい情報を聞くことはありませんか? 徳川幕府の埋蔵金や、第二次世界大戦後に生まれたという「M資金」、小説やドラマにもなった土地売買など、ただの都市伝説に限らず実際の詐欺事件が起こったりもしています。こうした情報はジョークや物語として楽しむだけならよいですが、本当に騙されてしまっては笑い事では済まされません。

怪しい情報を数学的に分析する研究が「計算社会学」という分野で研究されています。今回は、その知見が紹介されたこちらの書籍※をもとに怪しい情報の見極め方をご紹介します。
※笹原和俊著『フェイクニュースを科学する:拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』化学同人 2021



どれぐらい嘘を信じてしまう?

そもそもわたしたちはどれぐらい騙されやすいのでしょうか。米国の複数の州の高校生170人に「変わった咲き方をした花の写真」と「放射能の影響」というキャプションを同時に見せる実験が行われました。写真とキャプションの関係は全く書かれていないにもかかわらず、約40%の被験者がそのまま信用して「この写真は放射能の影響を表す証拠である」と回答しました[1]。実際の写真は報告書(p16)にあるので、ぜひクリックして、自分がそのまま信じてしまうか考えてみるとよいでしょう。
「そんな嘘を信じるわけがない」と思うかもしれません。しかし、私達は特に、次の4つの状況で偏った見方(認知バイアス)が起こりがちであることが知られています。


  • 情報過多
  • 情報が多すぎると、自分の先入観と一致したものだけを選ぶようになります(確証バイアス)。会議では、早口で大量の言葉を話す人がいたら「とりあえず自分がわかったところだけ」を聞いて返答するような状況がこれに当てはまります。


  • 情報不足
  • 情報が不足していると、過度に単純化してしまいます(単純化バイアス)。会議では、断片的に「困っていて…」と言われて沈黙されたら「またいつものあのトラブルか」と、詳しい状況を聞かずに決めつけてしまう状況がこれに当てはまります。


  • 時間不足
  • 情報処理に関する時間が足りないと、手近なものを良いと思ってしまいます(利用可能性ヒューリスティック)。会議では、時間が迫っている状況で判断しないといけないときに、もともと自分が正しいと思っている手近な情報を”根拠”にしてしまう状況がこれに当てはまります。


  • 記憶不足
  • 記憶力が不足すると、最近見たものを信用してしまいます(新近性効果)。会議では、話が複雑で内容が覚えられないときに、最後に聞いたことだけを元に返答してしまうような状況がこれに当てはまります。


    このように、わたしたちの普段の会議でもこういった認知バイアスは案外簡単に起こっているので、「自分だけは大丈夫」と思わないことがよいでしょう。



    噂の公式?

    私達は認知バイアスの影響から、必ずしも事実ではない話を他の人に話してしまいます。これが「うわさ」です。1946年には噂が広がる量について、次のような定式化がされています[2]。


    噂が広がる量=話題の重要さ x 状況の曖昧さ


    つまり、その話が重要であるほど噂は広がりやすく、さらに曖昧であるほど広がりやすいというのです。曖昧なほど情報不足による認知バイアスが起こり「過度に単純化する」ことで先入観で決めつけ、うわさにおひれがついてしまうのでしょう。




    怪しいニュースを疑うには?

    コミュニケーションの中で伝わる偽情報や怪しい噂をどう扱えばいいのでしょうか。
    ここで重要なことは「そのうわさや情報が真実かどうかを判断しない」ということです。その場ですぐに真実かどうかを判断することは不可能です。真偽を即決する代わりに「一旦保留したほうがいいかも?」という疑いを持つことが重要です。
    情報を疑うための基準として、 NewseumED という団体が、E.S.C.A.P.E. Junk Newsという標語を紹介しています。次の6つの観点からニュースを見ると、疑ったほうがいいかを判断できる、というものです。


    E (Evidence) 証拠
    そのニュースは事実に基づいているか? 名前・数字・場所は明確か?


    S (Source) 情報源
    そのニュースは誰が作ったかわかるか?


    C (Context) 文脈
    そのニュースはどんな背景から生まれたものか? 関連する出来事はなにか?


    A (Audience) 読者
    そのニュースは誰に向けて書かれたものか?


    P (Purpose) 目的
    そのニュースは誰が作ったかわかるか?


    E (Execution) 情報の見え方
    そのニュースはどのように提示されているか? トーンや表現スタイル、画像の選択はどうなっているか?


    一旦保留する選択肢

    会議や議論、相談の中でに新しい情報や社内の報告、ニュースに触れることはよくあります。そんなとき、ESCAPEの標語を使って、真偽を判断せずに一旦保留するという選択肢を持ってみてもよいでしょう。
    今回の記事のベースにした書籍には、シミュレーションによって、人々が分断される条件を調べたり、ニュースの中身を見ずに拡散のされかたから高い精度でフェイクニュースかを判定した研究なども紹介されています。


    参考文献
    • [1] S. Wineburg et al. “Evaluating Information: The Cornerstone of Civic Online Reasoning”, Stanford Digital Repository, 2016.
    • [2] G. W. Allport and Leo Postman, “An Analysis of Rumor”, The Public Opinion Quarterly, Vol. 10, No. 4, pp.501-517, 1946.

    ニッキンONLINE PREMIUM 2025年6月8日掲載 (リンク)



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    #ニッキン #フェイクニュース対策 #認知バイアス #ハイラブル




    この記事を書いたメンバー

    水本武志

    ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。生物研究プロジェクト Project Dolittle もやってます。


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