コロナ禍のコミュニケーションで一番大きく変わったのは、「オンライン会議」が一般的になったことでしょう。「会議といえば当然対面」ではなくなったので、「対面会議」というレトロニム※も生まれました。
※レトロニム:元からある言葉が、あとから生まれた言葉が原因で変化したもの。例:携帯電話の登場で、これまで単に「電話」と言われていた据え置き型の電話が「固定電話」と言われるようになった。
これまでオンライン会議と対面会議の比較はいろいろな観点から行われていますが、今回は「通信路」という概念を切り口に比較してみます。
ここでは、通信路を”情報が伝わる経路“と考えましょう。たとえばオンライン会議の場合は、会話の情報はインターネットを介して伝わるので、インターネット回線が通信路と言えます。一方、対面会議の場合は、声は空気の振動で相手に伝わるので、空気そのものが通信路となります。
通信路の重要な要素は、 帯域です。
帯域は「どれだけの情報を送れるか?」を意味します。たとえば、携帯電話回線と光回線では、光回線の方が1秒あたりたくさんの情報をやり取りできるので、帯域が広いと言えます。また、混信しているトランシーバーは雑音が多く、言い直さないと通じないので帯域が狭く、携帯電話は音声がよりクリアに聞こえるので、帯域が広いといえます※。
※ちなみに、通信路とは情報理論という研究分野で使われている概念で、文字通り情報をやり取りする通路を表します。帯域は「どれだけの量の情報を送れるか」という信頼性だけを表しており、実際は「通信路にどれだけ誤りが含まれるか?」という信頼性も合わせて考える必要があります。多くの情報を送ることができても、ノイズで邪魔されては実質的に送れる情報は減ってしまうからです。それは「通信路容量」と呼ばれます。
それでは、通信の帯域と信頼性を使ってオンライン会議と対面会議を比べてみましょう。
オンライン会議はインターネット回線を通して声や画像の情報を送ります。マイクで収録した音声とカメラで撮影した情報しか送れないため帯域が狭く、加えて途中で途切れることもあり信頼性は低いです。
一方で、対面会議は、物理的な空間を通し空気の振動で声を、光の伝達で画像の情報を送ります。マイクで拾えない小さいつぶやきから体全体の動き、手の動きなども伝わるので帯域が広く信頼性が高いといえます。
まずは、伝えられる情報の量で対面会議とオンライン会議を比べます。
対面会議は、帯域が広いのでたくさんの情報を送れます。これは情報の無駄遣いができるということを意味します。たとえば、会議の内容以外にも、会議時間前後の雑談や、ちょっとした思いつきを話したり、アイコンタクトのやり取りができます。あるいは、ペンで机を叩くことで、いら立ちを伝えることもあるでしょう。
そのため、対面会議では互いの人となりや熱意など、会議内容以外の情報が伝わります。逆に、余計なことをたくさん話してしまい本題にたどり着けない可能性もありますね。
一方、オンライン会議では帯域が狭いので送れる情報は少なくなります。ということは、情報の節約が必要であるということを意味します。たとえば、オンライン会議は開始時刻ちょうどに入室することが多いですし、「小さい声でボソッとひとこと言う」ような表現は伝わりづらくなります。カメラをオフにする人も多いですね。終了後の雑談もほぼありません。
そのため、会議の内容を話すことが中心になります。(内職しなければ)議題について集中することができますが、対話した互いの人となりを知ることなどは難しくなるでしょう。
今回は、対面会議とオンライン会議を、通信路の切り口で比較しました。後半では、もう少し比較を続けて、さらに使い分けについてお話しします。
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。最近生物研究プロジェクト Project Dolittle も始めました。