社会環境が複雑になる中で企業活動におけるコミュニケーションの重要性は増加し、その質の向上が求められている。一方で、テレワークの普及や働き方の変化に伴い、会議・議論・相談といったコミュニケーションは、これまでの対面中心からオンラインやその混合にまで多様化しこれまで通りの運営は難しくなっている。シリーズ「会議が見える〜音環境分析でコミュニケーションを豊かにする〜」では、これまで6万人以上の話し合いを分析してきた音の専門家が会議を解説する。Vol.10 では、ビブリオバトルという、本を紹介するコミュニケーションゲームについて紹介する。
ビブリオバトルとは
最近読んで面白かった本や、薦めるならこれ!という本はありますか?ビブリオバトルとは、本を紹介する行為を誰でも楽しめるようにルール化したコミュニケーションゲームです。(公式サイトは こちら)
ビブリオバトルはシンプルなルールなので職場や家族で楽しめます。さらに、高校や大学の全国大会も開催されているなど、盛り上がっています。
以下に ビブリオバトル公式ルールを引用します。詳しくはリンク先をご覧いただきたいですが、全文引用してもこれだけです。
- 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
- 順番に1人5分間で本を紹介する。
- それぞれの発表の後に、参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行う。
- 全ての発表が終了した後に、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い、最多票を集めた本をチャンプ本とする。
今回は、このビブリオバトルについて、その意義や実際にやってみた事例を紹介します。
なぜ本を紹介するとコミュニケーションに良いのか
このビブリオバトルは、表面的に見ると、単に本を紹介し合うだけに見えますが、実はそんな単純ではありません。
まず、本を読むという行為は、その人の考え方や人となりを色濃く表すことが知られています。基本的人権にも関わるので、図書館協会では、国民の知る自由を守るために図書館の自由に関する宣言という文書で読書事実の秘密を守ることを謳っています。(ちなみに、この宣言をテーマにした有川浩著『図書館戦争』は面白い作品でおすすめです。)
このように読んだ本はその人の内面を表すので、お互いに本を紹介し語り合うことを通して、その人の人となりが見え、相互理解が進むというわけです。
さらに、本を紹介するということは、自分自身のメタ認知にも効果があります。というのも、たとえ好きな本でも、5分で面白さを紹介するのはそんなに簡単ではないからです。語りたいことが多すぎる場合は要点をまとめる必要がありますし、5分も話せない場合は、より深掘りしていく必要があります。
そのため、紹介したい本を改めて読み返し、「なぜ読んでほしいのか」「どんな構成で話すと魅力が伝わるのか」「読みたくなってもらうにはどこまでネタバレしたらいいか」など、本にまつわることを深く考えるきっかけになります。これを通して本や、それを好きな自分自身を客観的に理解できるようになるので、メタ認知が進むわけです。
ルールを追加したビブリオバトルとその事例
私が所長を務める「おたまじゃくし研究所」でも、ビブリオバトルをやってみました。ただし、公式ルールよりさらに難しくするために、こんなルールを追加しました。「紹介する本は、他の参加者が読んだことが無いものにしなければならない。読んだことが無いかを確認するために事前に本を確認してよい。」
この追加ルールによって、定番の本や売れた本は対象から外れます。とくにおたまじゃくし研究所のメンバーは読書家が多いので、メジャーどころはほぼ対象外になります。このルールによって、「このメンバーで自分だけが読んだことのある本ってなんだろう?」と考えるきっかけになったり、逆に自分が定番だと思っていた本を案外誰も知らないということがわかります。
もちろんゲームに勝つには投票して貰う必要があるので、あまりに難解なものや奇をてらった本ではいけません。その塩梅も考慮する必要があります。
このルールで遊んでみた結果は、こちらの記事「知らない本を紹介しよう!第1回おたま研ビブリオバトル」や、こちらの動画「おたま研 ビブリオバトル」で紹介しているのでぜひご覧ください。
そして、好奇心が刺激され、相互理解が進むので、ぜひ職場や家庭で一度ビブリオバトルを楽しんでみてください。取引先とやってみても面白いかもしれません。
ニッキンONLINEプラス2023年8月5日掲載 (リンク)
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。生物研究プロジェクト Project Dolittle もやってます。