会議・議論・相談などのコミュニケーションが、これまでの対面中心からオンラインやその混合にまで多様化している。シリーズ「会議が見える〜音環境分析でコミュニケーションを豊かにする〜」は、これまで7万人以上の話し合いを分析してきた音の専門家が会議を解説する。今回は、近年重要性が増している人的資本経営について、現状や最近の研究を紹介し、コミュニケーションの与える影響について紹介する。
本記事は、ニッキンONLINE PREMIUMで連載中の記事の転載です。
※媒体社の許諾のうえ転載しております。
本記事は、ニッキンONLINE PREMIUMで連載中の記事の転載です。
※媒体社の許諾のうえ転載しております。
人的資本とは
社会の複雑化・自動化が進むなか、企業の成長に影響を大きく与える要素が、生産設備の多さや工場の数といった有形資産から、人材などの無形資産に移ってきています。こうした社会の流れから、人材を「管理する部品」ではなく、「投資し育成すべき資産」とみなす経営の考え方が生まれました。これを人的資本経営と呼び、経済産業省が公表した人材版伊藤レポートなどを契機に、「人的資本」という言葉が広く知られるようになりました。
さらに、内閣府は内閣府令を改正し、2023年3月期から人的資本の開示を義務付けました。また、内閣府の非財務情報可視化研究会では、人的資本を定量的に計測し可視化するための人的資本可視化指針を公表しました。この指針では、ダイバーシティや採用、人材育成などの企業の人的資本に関わる19の項目について定量化の例を示しています。
このように、人的資本は企業活動を行う上で欠かせない概念になっています。
人的資本の研究動向
開示義務化のような制度以外にも、人的資本に関する研究も大きく進んでいます。ここでは文献(大湾秀雄『人的資本理論と企業の生産性決定メカニズム』, 組織化学, Vol. 57, No.1,2023 pp.28-38, 2023)から人的資本研究でわかってきたことを紹介します。
【研修の効果】
研修の効果は、従業員が受けるメリット(賃金の上昇)と企業が受けるメリット(生産性の向上)に分けられます。従来は、従業員の賃金上昇の効果の方が大きいといわれていました。しかし、最近の研究では生産性の向上効果の方が大きいようです。つまり、研修に関する人的資本投資のリターンは、主に企業が受け取れるようです。
研修の効果は、従業員が受けるメリット(賃金の上昇)と企業が受けるメリット(生産性の向上)に分けられます。従来は、従業員の賃金上昇の効果の方が大きいといわれていました。しかし、最近の研究では生産性の向上効果の方が大きいようです。つまり、研修に関する人的資本投資のリターンは、主に企業が受け取れるようです。
【上司の効果】
優秀な管理職とそうでない管理職が、部下の生産性に与える影響はかなり大きいようです。さらに、部下の離職率にも影響を与えるため、管理職の能力差はより大きくなります。一方で、管理職の賃金差は、能力差ほど大きくはないようです。したがって、経営としては「優秀な上司」の人的資本投資は高いリターンが期待できると言えるでしょう。
優秀な管理職とそうでない管理職が、部下の生産性に与える影響はかなり大きいようです。さらに、部下の離職率にも影響を与えるため、管理職の能力差はより大きくなります。一方で、管理職の賃金差は、能力差ほど大きくはないようです。したがって、経営としては「優秀な上司」の人的資本投資は高いリターンが期待できると言えるでしょう。
【同僚の効果】
従業員は同僚からも学習します。特に、チームのスキルの多様性が高いと、生産性の伸びが大きくなる傾向があります。これは、メンバー同士お互いに足りないスキルを学び合うためだと言えるでしょう。 通常は似たスキルを持つメンバーをチームにしがちですが、それでは学習が進みにくいので、多様な混成チームを作ることが生産性の向上に重要なようです。
従業員は同僚からも学習します。特に、チームのスキルの多様性が高いと、生産性の伸びが大きくなる傾向があります。これは、メンバー同士お互いに足りないスキルを学び合うためだと言えるでしょう。 通常は似たスキルを持つメンバーをチームにしがちですが、それでは学習が進みにくいので、多様な混成チームを作ることが生産性の向上に重要なようです。
コミュニケーションと人的資本
今回紹介した3つの効果のうち、上司の効果と同僚の効果は、集団としての人的資本だと言えます。文献によると、従来は個人の能力について研究されていましたが、最近はこのような集団に着目したマルチレベル人的資本の研究が注目されているようです。
集団の働きを考えるときには、コミュニケーションの影響は欠かせません。たとえば、会議中に一部の中心人物だけが発言していて、ほかのメンバーの発言機会が公平でない場合は、心理的安全性が低下し、人的資本への効果は減ってしまうでしょう。ちなみに私達は、こうした問題を解決に導くコリバや失敗テラーといったワークショップを提供しています。
他にも社内カフェや、社内イベントなど、偶発的なコミュニケーションが活性化するオフィスを作るという試みもされています。こうした施策についても、オフィスの会話量を計測することで人的資本への効果を定量的に調べることが可能になるでしょう。
まとめ
このように、人のスキルや生産性の成長を考えるときに個人に目が行きがちですが、上司や同僚の影響も大きく受けることが人的資本の研究で知られています。そのため、個人のスキルだけでなく、社内やチームでのコミュニケーションのスキルにも着目するとより人的資本が増え、働く人も豊かなコミュニケーションができるようになるでしょう。
ニッキンONLINEプラス2024年4月27日掲載 (リンク)
#人的資本 #コミュニケーション #生産性向上 #ダイバーシティ #人材育成 #マネジメント #心理的安全性 #チームワーク #ハイラブル
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。生物研究プロジェクト Project Dolittle もやってます。