Vol. 12 言葉を使うとはどういうこと?:言語行為論【ニッキン転載記事】

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社会環境が複雑になる中で企業活動におけるコミュニケーションの重要性は増加し、その質の向上が求められている。一方で、テレワークの普及や働き方の変化に伴い、会議・議論・相談といったコミュニケーションは、これまでの対面中心からオンラインやその混合にまで多様化しこれまで通りの運営は難しくなっている。シリーズ「会議が見える〜音環境分析でコミュニケーションを豊かにする〜」では、これまで7万人以上の話し合いを分析してきた音の専門家が会議を解説する。Vol.12 では、私たちが言葉を使うことに関する解像度をさらに上げるために、言語学における考え方「言語行為論」を紹介する。

本記事は、ニッキンONLINE PREMIUMで連載中の記事の転載です。
※媒体社の許諾のうえ転載しております。
言葉を使うとは事実を伝えること?
私たちは日常的に言葉を使っていますが、言葉を使うとはそもそもどういうことなのでしょうか?
言語について研究している言語学という分野では「言葉を使うとは事実を伝えることだ」という考え方が主流でした。これに基づいて、言語の意味を中心にさまざまな観点から研究されていました。例えば、音韻論・統語論・語用論などは現在でも使われている考え方です。
【音韻論】言葉がどのようなで表現されるか?(=発音)
【統語論】言葉がどのような順番や規則で使われるか?(=文法)
【語用論】言葉がどのような意味で使われているか?(=意味)
たとえば、自動で声を文字起こしする音声認識の研究でもこのような考え方は共通しています。伝統的には、音韻論のような声と文字の関係を表現する音響モデルと、統語論のように文法的にありえる規則で文字を並べる言語モデルを組み合わせて音声を文字化しています。
言語を使った効果に着目する「言語行為論」
そんな中、1962年にイギリスの哲学者ジョン・L・オースティンは、言葉を使った結果どんな効果があったのか?に着目するという新しい考え方を提案しました。これが言語行為論です。この考え方は、「Vol.11 会話の哲学:会話に対する解像度が上がる考え方」の会話の哲学で紹介した、私たちが発言するとき、〝単に内容を伝える以外のこともしている〟という考え方にも共通しています。
言語行為論では、言葉を使うということについて、その効果に着目して、3つの観点、発話行為・発話内行為・発話媒介行為から分析を行います。
【発話行為】声を発するという行動そのものの効果 この観点では、声を出すこと自体の効果を分析します。たとえば、店員さんが「シェイクの味には、バニラ・チョコ・ストロベリーがあります」と案内したとき、私がチョコと言った直後に「それください!」というと、チョコが欲しいということまで伝わるという効果が起こりますね。
このように、「それがほしい」という内容に加えて、その時に言ったということに効果があったのか?ということを考えるのが発話行為という観点です。
【発話内行為】話した内容や話し方など、その発話が持つ効果 この観点では、その発話自体の効果を分析します。たとえば、子供が生まれたときに「この子は太郎と名付ける」と自分で言ったとします。それは正しい/誤りを判断できるような意味を伝えているのではありません。
このように、その内容を宣言したこと自体に効果があったのか?ということを考えるのが発話内行為という観点です。
【発話媒介行為】話したことによって、相手に与えた効果 この観点では、その発話が相手に与えた効果を分析します。たとえば「窓を閉めてください」と言ったとき、相手が実際に窓を閉めたという効果があるときもあれば、「なぜ俺が閉めないと行けないんだ!」というように、怒りを誘発する効果があるときもありますね。
このように、何を言ったかではなく、発話との関係から相手に影響を与えたのか?ということを考えるのが発話媒介行為という観点です。
まとめると、言語行為論では、言語のコミュニケーションとしての役割を重視し、発言が事実かどうかよりもそれがどんな効果をもたらしたか?について考える理論であるといえるでしょう。
事実さえ伝わればいい?
話し方の重要性を主張する書籍は既に多く出版されていますが、このように、哲学においても言葉は事実を述べるだけではないと考えられています。
一方で、私たちは事実や言葉の内容にとらわれがちです。たとえばスピーチをするとき、原稿の内容は考えますが、それが聴衆に与える効果は軽視しがちです。また、事実を伝えることだけを考えて、それが相手に及ぼす影響を軽視するためにパワハラが生まれるケースもあるでしょう。
そこで、事実以外にも、言語行為論的に「そのタイミングで言うと何が起こるか?」「それを言うことで何が起こるか」「その発言が相手にどんな影響を与えるか?」まで考えることで、より豊かなコミュニケーションができるのではないでしょうか。
参考文献
J.L・オースティン『言語と行為』講談社学術文庫, 2019
杉万俊夫『グループ・ダイナミックス入門』世界思想社, 2013
大沢真幸『意味と他者性』勁草書房, 1994
ニッキンONLINEプラス2023年12月24日掲載 (リンク)

#言語行為論 #コミュニケーション #発話行為 #会議効率化 #オンライン会議 #ハイラブル

この記事を書いたメンバー

水本武志

ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。生物研究プロジェクト Project Dolittle もやってます。

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