現代のビジネスの環境において、コミュニケーションの質の向上は重要である。とくに、対面やオンラインが混ざりあった環境で会議・議論・相談といった日々のコミュニケーションを効果的に行うことの重要性はますます増している。シリーズ「会議が見える〜音環境分析でコミュニケーションを豊かにする〜」では、これまで7万人以上の話し合いを分析してきた音の専門家が会議を解説する。今回は、アイデア出しでよく使われる「ブレインストーミング」について、その効果的な方法を紹介する。
本記事は、ニッキンONLINE PREMIUMで連載中の記事の転載です。
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ブレインストーミングとは?
ブレインストーミングとは、新しいアイデアを考えるときにやるアイデア出しの方法で、会議参加者がアイデアを出し、組み合わせすることで創造的なアイデアを作り出すために行われるミーティングの形式です。〝ブレスト〟と略され、いろいろなところで行われていますね。今回の記事は、組織心理学者トマス・チャモロープリミュージク氏₁や心理学者アダム・グラント氏₂の解説をベースにブレストの起源や最近の研究、そして効果的にブレストを行う方法について解説します。
ブレインストーミングの起源は1950年代アメリカの実業家のアレックス・F・オズボーン氏が名付けたアイデア創出法で、次の4つのルールに基づいて運用します。
- 1.できるだけたくさんのアイデアを出す
- 2.普通でないもの、独創的なアイデアを優先する
- 3.既に出されたアイデアの組み合わせや改良をする
- 4.ブレインストーミング中は批判を避ける
この定義は、現在よく行われるブレストとは大きく変わりませんね。
オズボーン氏は、ブレインストーミングによって個人でアイデアを考えるよりも生産性が50%以上改善したと主張していますが、その後の800以上のチームを対象とした研究では、ブレストの効果は否定されることになりました。
ブレインストーミングは無意味?
近年の研究では、ブレインストーミングでは個人で作業を行うよりもむしろ創造性が下がるという結果が多く報告されています。その理由は以下のようにいくつか指摘されています。
社会的手抜き
多くの人が参加すると「自分ぐらい適当でもいいだろう」とか「自分が頑張っても結局意味ないだろう」と感じてしまい、成果が下がってしまう現象です。
社会的な不安
たとえルールでアイデアの批判を禁止しているとはいえ、自分のアイデアが他の人に見られることから「バカだと思われたくない」とか「変な目で見られたくない」という不安が起こります。とくに他の人のほうが詳しいと感じたり、自分が内向的だったりするとその不安はさらに大きくなります。
発言の偏り
同時に会話する状況では、立場が上の人や外交的で発言力や声の大きい人が多く発言することになります。そのため、立場が弱い参加者や内向的な参加者の発言が少なくなり、多様な意見が出にくくなります。
オズボーン氏は周囲から見られることでモチベーションが維持でき、量を出すことで質に転化すると考えていたようですが、他者に見られること自体が理由で不安を感じたり、本当に考えているアイデアが出せなくなってしまうというのが実態のようです。
効果的なブレスト「ブレインライティング」とは
このブレストの問題を解決するために提案されているのが〝ブレインライティング〟です。名前の通り、話す代わりに
まず、次の3ステップまでは
- 1.参加者が個別でアイデアを考えて付箋に書く
- 2.付箋をシャッフルした上で全員に見せる
- 3.参加者が個別でアイデアの評価を行う
その後、
- 4.最も有望なアイデアを選び、その改善や代替案を議論する
ブレインライティングでは、いきなり会話を始めることによる手抜きや不安を、個人作業を挟むことによって避けています。この方法を提案した パウルスらの論文₃ によると、この方法によって統計的に有意なほどアイデアが多く出たようです。
まとめ
ブレインストーミングは、ただ会話をするだけでは逆にアイデアの幅が狭まることが知られていますが、個人作業を挟むことで効果が出ます。
ぜひ次の会議でブレインライティングを試してみてはいかがでしょうか。
- [1] Thomas Chamorro-Premuzic, “Why Group Brainstorming Is a Waste of Time, Harvard Business Review, 2015. https://hbr.org/2015/03/why-group-brainstorming-is-a-waste-of-time
- [2] Adam Grant, “Why Brainstorming Doesn’t Work”, TIME, 2023.
- [3] Paul B. Paulus, Huei-Chang, Yang, “Idea Generation in Groups: A Basis for Creativity in Organizations”, Organizational Behavior and Human Decision Processes, Vol. 81, Issue 1. pp.76-87, 2000.
ニッキンONLINE PREMIUM 2024年7月28日掲載 (リンク)
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この記事を書いたメンバー

水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。生物研究プロジェクト Project Dolittle もやってます。